うさぎとかめ

 お子さんたちは、すべて良い素質をお持ちです。これからは、小学校の教育過程で開花するように努力して欲しいのです。先が長いのですから「ゆっくりと、着実に」進めて下さい。イソップ物語の「うさぎとかめ」の話が、やはり良い教訓です。
 お子さんの中には、「うさぎ」のような前進力をお持ちの方も多いのですが、義務教育制の小学校には超特急がないのです。そこで、一眠りということになりやすいのです。そのうち眠り癖がついて前進力が失われたり、いざ前進しようという時になってガソリンが用意されていないように、地道な基礎基盤知識や技能が身に付いていなかったりするということがよくあるのです。それで、小学校一、二年生の国語や算数や理科や社会などが退屈なら、その力を前だけでなく放射線状に発揮されて児童文学や社会や歴史の話や自然観察や音楽や芸術の愛好へと向けて欲しいのです。それは後になって、大きな熱源となって役立ちます。
 要するに、「うさぎ」でありながら、「かめ」でもあることが大切だということです。
 「うさぎとかめ」の寓話は、人生の基本は、やはり「かめ」だと教えるのですが、私も長い間に多くの人々を見てきた経験や私自身の体験から、その通りだと 思います。
 それで、お子さんが、入学されたら、毎日、机に向かって静かな心で、よい気分で、十分でも十五分でもよいから、考えたことを書いたり、日記を書いたり、算数をしたり、良い幼児文学や児童文学を読んだりさせて欲しいのです。入学当初は教科書がさほど使われないので、工夫が必要なのです。
 その際に、心掛けて欲しいことは、絶対に叱ったり、説教したりしないようにすることです。でないと「勉強とはイヤなことだ。」という観念がついて大変なことになります。少々、お子さんのされたことに誤りがあっても、せっかく静かな落ち着いた気分でされたのですから、誤りは見過ごして、その良い勉強の気分が身に付くように配慮して欲しいのです。
 そして、お子さんが机に向かっておられる時には、お母さんは、その部屋のどこかで静かに日記を書かれるのが一番良いと思います。「私は日記が苦手で」とおっしゃらないで下さい。苦手の日記を静かな落ち着いた気分でお書きになろうなろうとする母親の努力が以心伝心でお子さんに影響して、静かな落ち着いた気分で勉強なさるようになります。それができない親に、子どもの勉強をやかましく言う資格はありません。
 親子一体の「かめぶり」が、お子さんの学校生活を、そして、人生を開く鍵だと私は信じます。

1983年3月

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